宅建 令和2年度(2020年)問5 権利関係 の解説
問題
次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
- Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、Bは報酬全額をAに対して請求することができるが、自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない。
- Bは、契約の本旨に従い、自己の財産に対するのと同一の注意をもって委任事務を処理しなければならない。
- Bの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、BはAに対して報酬を請求することができない。
- Bが死亡した場合、Bの相続人は、急迫の事情の有無にかかわらず、受任者の地位を承継して委任事務を処理しなければならない。
正解
正解は選択肢 1 です。
解説
正解は選択肢1です。委任者の責めに帰すべき事由によって委任が途中で終了した場合、受任者は民法第648条第2項の規定により、報酬全額を請求できます。ただし、自己の債務(委任事務の履行)を免れたことによって得た利益は、民法第536条第2項の類推適用により、委任者に償還しなければなりません。これは、公平の原則に基づくものです。
【民法第648条第2項(報酬請求権)】 委任事務の履行中に委任が終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。ただし、委任者の責めに帰すべき事由によって委任が終了したときは、受任者は、既にした履行の割合にかかわらず、報酬の全額を請求することができる。 【民法第536条第2項(危険負担)】 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受けることができる。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 【民法第644条(受任者の注意義務)】 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。 【民法第653条(委任の終了事由)】 委任は、次に掲げる事由によって終了する。 一 委任者又は受任者の死亡 二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。 三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。 【民法第654条(委任終了後の処理)】 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるようになるまで、必要な処分をしなければならない。
【選択肢1】正。 この選択肢は、委任契約における報酬請求権と利益償還義務に関する重要な規定を組み合わせています。 まず、「Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合」という点がポイントです。委任者の都合や責任で委任が途中で終わってしまった場合、受任者Bは、本来であれば最後まで事務を履行して得られたはずの報酬を失うことになります。そこで、民法第648条第2項は、このようなケースでは、受任者は「既にした履行の割合にかかわらず、報酬の全額を請求することができる」と定めています。これは、委任者の都合で受任者に不利益が生じることを防ぐための規定です。 次に、「自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない」という点です。受任者Bは、委任事務の全額分の報酬を受け取る一方で、途中で委任が終了したため、残りの事務を履行する義務がなくなります。この「事務を履行する義務を免れた」ことによって、本来かかるはずだった費用(例えば、人件費や材料費など)を節約できた場合、それは受任者Bにとっての利益となります。この利益は、委任者Aの責任で委任が終了したとはいえ、受任者Bが不当に利得することになるため、民法第536条第2項の趣旨(債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行できなくなった場合、債務者は反対給付を受けられるが、自己の債務を免れた利益は債権者に償還する)を類推適用し、委任者Aに償還しなければならないとされています。これは、当事者間の公平を図るための規定です。したがって、この記述は正しいです。 【選択肢2】誤。 委任契約における受任者の注意義務は、民法第644条に規定されています。「善良な管理者の注意をもって」(善管注意義務)委任事務を処理する義務を負います。これは、その職業や地位において一般的に要求される程度の注意を払うべきであるという意味です。一方、「自己の財産に対するのと同一の注意」(自己物と同一の注意義務)は、自分の財産を扱うのと同じ程度の注意で足りるという、善管注意義務よりも緩やかな注意義務であり、例えば無償寄託契約などで適用されることがあります。委任契約は、当事者間の信頼関係に基づいて、委任者のために事務を処理する契約であるため、より高度な善管注意義務が課せられています。したがって、この記述は誤りです。 【選択肢3】誤。 この選択肢は、「Bの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合」とあります。つまり、受任者Bの責任で委任が途中で終わってしまったケースです。この場合、受任者Bは委任事務を完遂できなかった責任があるため、原則として報酬全額を請求することはできません。しかし、民法第648条第2項は、「委任事務の履行中に委任が終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる」と規定しており、終了事由を限定していません。したがって、受任者Bの責めに帰すべき事由で終了した場合であっても、既に履行した部分が委任者Aに何らかの利益をもたらしているのであれば、その既履行部分の割合に応じた報酬を請求できる可能性があります。例えば、途中で辞任した受任者が、それまでに行った事務処理によって委任者が利益を得た場合などです。したがって、「報酬を請求することができない」と一概に断定するこの記述は誤りです。 【選択肢4】誤。 委任契約は、当事者間の個人的な信頼関係を基礎とする契約です。そのため、民法第653条第1号により、受任者Bが死亡した場合は、委任契約は当然に終了します。受任者の地位は一身専属的なものであり、原則としてその相続人が地位を承継して委任事務を処理する義務はありません。ただし、民法第654条には例外規定があり、委任が終了した場合でも、「急迫の事情があるとき」は、受任者の相続人などは、委任者などが事務を処理できるようになるまで、必要な処分をしなければならないとされています。これは、委任者の不利益を最小限に抑えるための緊急措置であり、「急迫の事情の有無にかかわらず」という記述は、この例外規定の適用範囲を誤解させるため、誤りとなります。急迫の事情がない限り、相続人は委任事務を処理する義務を負いません。