宅建 令和2年度(2020年)問6 権利関係 の解説

問題

次の記述のうち、民法の規定によれば、売買契約締結後、AがBに対し、錯誤による取消しができるものはどれか。

  1. Aは、自己所有の自動車を100万円で売却するつもりであったが、重大な過失によりBに対し「10万円で売却する」と言ってしまい、Bが過失なく「Aは本当に10万円で売るつもりだ」と信じて購入を申し込み、AB間に売買契約が成立した場合
  2. Aは、自己所有の時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み、Bに対し「手元にお金がないので、10万円で売却したい」と言ったところ、BはAの言葉を信じ「それなら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
  3. Aは、自己所有の時価100万円の名匠の絵画を贋作だと思い込み、Bに対し「贋作であるので、10万円で売却する」と言ったところ、Bも同様に贋作だと思い込み「贋作なら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
  4. Aは、自己所有の腕時計を100万円で外国人Bに売却する際、当日の正しい為替レート(1ドル100円)を重大な過失により1ドル125円で計算して「8,000ドルで売却する」と言ってしまい、Aの錯誤について過失なく知らなかったBが「8,000ドルなら買いたい」と言って、AB間に売買契約が成立した場合

正解

正解は選択肢 3 です。

解説

正解は選択肢3です。選択肢3は、売主Aが絵画を贋作だと誤認し、その動機を相手方Bに表示した上で契約を締結しており、さらに相手方Bも同一の錯誤に陥っています。このような場合、民法第95条第3項ただし書きの規定により、表意者Aに重大な過失があったとしても、その意思表示を取り消すことができます。

本問の根拠となるのは、民法第95条(錯誤)です。 * **民法第95条第1項**:意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 * **第1号(表示の錯誤・内容の錯誤)**:意思表示に対応する意思を欠く錯誤(例:100万円と書くつもりが10万円と書いてしまった)。 * **第2号(動機の錯誤)**:表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(例:この土地は将来値上がりすると信じて購入したが、実際は値下がりした)。動機の錯誤は、その動機が相手方に表示され、法律行為の内容となった場合に限り、取り消しの対象となります(判例の趣旨)。 * **民法第95条第3項**:第1項の規定による意思表示の取消しは、表意者に重大な過失があった場合には、することができない。ただし、次に掲げる場合には、取り消すことができる。 * **第1号**:相手方が表意者の錯誤を知っていたとき、又は表意者の錯誤について重大な過失によって知らなかったとき。 * **第2号**:相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。 * **民法第95条第4項**:第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができません(善意無過失の第三者保護)。

【選択肢1】誤。Aは「100万円で売却するつもり」が「10万円で売却する」と言ってしまったため、これは意思表示に対応する意思を欠く**表示の錯誤**(民法第95条第1項第1号)に該当します。しかし、Aには「重大な過失」があり、相手方Bは「過失なく」Aの錯誤を知らなかったため、民法第95条第3項本文により、原則として取消しはできません。同項ただし書きの例外(相手方が錯誤を知っていた、または重大な過失で知らなかった、あるいは相手方も同一の錯誤に陥っていた)にも該当しないため、Aは取消しをすることができません。 【選択肢2】誤。Aは「時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み」売却しようとしています。これは法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する**動機の錯誤**(民法第95条第1項第2号)に該当します。動機の錯誤が取消しの対象となるためには、その動機が相手方に表示され、法律行為の内容となっている必要があります。本件では、Aは「手元にお金がないので」という動機は表示していますが、「壺が10万円程度であると思い込んでいる」という動機は表示していません。したがって、動機の錯誤として取り消すことはできません。 【選択肢3】正。Aは「時価100万円の名匠の絵画を贋作だと思い込み」売却しようとしています。これは**動機の錯誤**(民法第95条第1項第2号)です。Aは「贋作であるので、10万円で売却する」と、その動機(絵画が贋作であるという認識)を相手方Bに**表示しています**。さらに、Bも「同様に贋作だと思い込み」購入しているため、**相手方BもAと同一の錯誤に陥っています**。この場合、民法第95条第3項第2号のただし書きにより、表意者Aに重大な過失があったとしても、その意思表示を取り消すことができます。したがって、Aは取消しをすることができます。 【選択肢4】誤。Aは「正しい為替レート(1ドル100円)を重大な過失により1ドル125円で計算して」売却しようとしています。これは意思表示に対応する意思を欠く**表示の錯誤**(民法第95条第1項第1号)に該当します。Aには「重大な過失」があり、相手方Bは「Aの錯誤について過失なく知らなかった」ため、民法第95条第3項本文により、原則として取消しはできません。同項ただし書きの例外にも該当しないため、Aは取消しをすることができません。

令和2年度の過去問を模擬試験形式で解く