宅建 令和2年度(2020年)問4 権利関係 の解説
問題
次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。なお、原状回復義務について特段の合意はないものとする。
- 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、通常の使用及び収益によって生じた損耗も含めてその損傷を原状に復する義務を負う。
- 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、賃借人の帰責事由の有無にかかわらず、その損傷を原状に復する義務を負う。
- 賃借人から敷金の返還請求を受けた賃貸人は、賃貸物の返還を受けるまでは、これを拒むことができる。
- 賃借人は、未払賃料債務がある場合、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てるよう請求することができる。
正解
正解は選択肢 3 です。
解説
正解は選択肢3です。敷金は、賃貸借契約が終了し、かつ賃貸物の返還(明渡し)が完了した後に、未払賃料や原状回復費用などを差し引いて返還される性質を持ちます(民法第622条の2第1項、最判昭和49年9月2日)。したがって、賃貸人は、賃貸物の返還を受けるまでは敷金の返還を拒むことができます。
・民法第622条の2第1項(敷金の定義と効力):敷金は、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。敷金が交付された場合、賃貸人は、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときに、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務の額を控除した残額を賃借人に返還しなければならない。 ・最判昭和49年9月2日:敷金返還債務は、賃貸借契約終了後、目的物の明渡しがあったときに発生する。また、賃借人は、賃貸人に対し、敷金を未払賃料に充当するよう請求することはできない。 ・最判平成17年12月16日:賃借人の原状回復義務は、賃借人が賃借物を受け取った後に生じた損傷のうち、賃借人の故意・過失によるもの(通常損耗や経年劣化を除く)に限られる。
【選択肢1】誤。賃借人の原状回復義務(民法第621条)は、賃借人が賃借物を受け取った後に生じた損傷のうち、賃借人の「故意または過失」によって生じたものに限られます。判例(最判平成17年12月16日)によれば、通常の使用や収益によって生じる損耗(これを「通常損耗」といいます)や、時間の経過によって自然に生じる劣化(「経年劣化」といいます)については、賃借人は原状回復義務を負いません。これらは賃料に含まれるものと解釈され、賃貸人が負担すべきものとされています。したがって、「通常の使用及び収益によって生じた損耗も含めて」原状回復義務を負うとする本記述は誤りです。 【選択肢2】誤。原状回復義務は、賃借人の「帰責事由」(故意または過失)によって生じた損傷についてのみ発生します。例えば、賃借人が不注意で壁に穴を開けてしまった場合や、故意に物を壊した場合などがこれに当たります。しかし、地震や火災などの自然災害によって生じた損傷や、賃借人が十分な注意を払っていたにもかかわらず発生した事故による損傷など、賃借人に帰責事由がない場合は、賃借人は原状回復義務を負いません。したがって、「賃借人の帰責事由の有無にかかわらず」原状回復義務を負うとする本記述は誤りです。 【選択肢3】正。敷金は、賃貸借契約から生じる賃借人の債務(未払賃料、原状回復費用など)を担保するために預けられる金銭です。民法第622条の2第1項および判例(最判昭和49年9月2日)によれば、敷金返還債務は、賃貸借契約が終了し、かつ賃貸物の返還(明渡し)が完了したときに発生します。つまり、賃貸人は、賃借人が部屋を明け渡すまでは、敷金から差し引くべき債務の額が確定しないため、敷金の返還を拒むことができます。本記述は、この敷金の性質と返還時期に関する原則を正しく述べています。 【選択肢4】誤。敷金は、賃貸借契約から生じる賃借人の債務を担保するものであり、その債務に充当するかどうかは、賃貸人の権利です。賃借人が未払賃料債務があるからといって、一方的に「敷金をその債務の弁済に充ててほしい」と賃貸人に請求することはできません(最判昭和49年9月2日)。もし賃借人が自由に充当を請求できるとすると、賃貸人は賃貸借契約期間中に担保を失うことになり、賃貸借契約終了時の精算が困難になるためです。賃借人は、あくまで賃料を支払う義務があり、敷金は最終的な精算のために預けているものと理解しましょう。