宅建 平成30年度(2018年)問5 権利関係 の解説
問題
Aは、隣人Bの留守中に台風が接近して、屋根の一部が壊れていたB宅に甚大な被害が生じる差し迫ったおそれがあったため、Bからの依頼なくB宅の屋根を修理した。この場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。
- Aは、Bに対して、特段の事情がない限り、B宅の屋根を修理したことについて報酬を請求することができない。
- Aは、Bからの請求があったときには、いつでも、本件事務処理の状況をBに報告しなければならない。
- Aは、B宅の屋根を善良な管理者の注意をもって修理しなければならない。
- AによるB宅の屋根の修理が、Bの意思に反することなく行われた場合、AはBに対し、Aが支出した有益な費用全額の償還を請求することができる。
正解
正解は選択肢 3 です。
解説
正解は選択肢3です。本問は「緊急事務管理」のケースであり、このような緊急時には、管理者の注意義務は通常の事務管理よりも軽減されると解釈されています。そのため、「善良な管理者の注意」という高いレベルの注意義務を負うとする選択肢3は誤りとなります。民法699条の趣旨を理解することが重要です。
本問の根拠となる主な条文は以下の通りです。 * **民法第697条第1項(事務管理の開始、管理者の義務)** * 「義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、本人のために最も有利になるように管理をしなければならない。」 * 【補足】事務管理の基本的な定義と、管理者が負うべき義務の原則を示しています。原則として善管注意義務を負うと解釈されますが、緊急事務管理には特則があります。 * **民法第699条(緊急事務管理)** * 「管理者は、緊急の事情がある場合において、本人の意思に反して事務管理をしたときであっても、本人の利益のためにしたことが明らかであるときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。」 * 【補足】緊急時に他人の事務を管理した者を保護するための規定です。この規定の趣旨から、緊急事務管理の場合には、管理者の注意義務が軽減されると解釈されます。 * **民法第701条(準用規定)** * 「第645条から第647条までの規定は、事務管理について準用する。」 * 【補足】委任契約に関する規定の一部が事務管理にも適用されることを示しています。 * **民法第645条(受任者の報告義務)** * 「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。」 * 【補足】事務管理においても、本人の請求があれば、管理者は事務処理の状況を報告する義務を負います。 * **民法第702条第1項(管理者による費用償還請求)** * 「管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。」 * 【補足】事務管理者が、本人のために支出した費用を本人に請求できる権利を定めています。
それでは、各選択肢を詳しく見ていきましょう。 【選択肢1】正。 Aは、Bからの依頼なくB宅の屋根を修理しています。これは「事務管理」に該当します。事務管理は、他人の事務を処理する行為ですが、原則として「無償」で行われるものです。民法には、事務管理者が本人に対して報酬を請求できるという規定はありません。これは、事務管理が、本人のために自発的に行う行為であるという性質に基づくものです。したがって、特段の事情(例えば、事前に報酬に関する合意があった場合など)がない限り、AはBに対して報酬を請求することはできません。この選択肢は正しい記述です。 【選択肢2】正。 事務管理者は、本人のために事務を処理する義務を負います。民法701条により、委任に関する規定である民法645条が事務管理にも準用されます。民法645条は、受任者(事務管理者)は、委任者(本人)の請求があるときは、いつでも委任事務(本件事務処理)の状況を報告しなければならないと定めています。したがって、AはBからの請求があった場合には、本件事務処理の状況をBに報告する義務があります。この選択肢は正しい記述です。 【選択肢3】誤。 事務管理者の注意義務は、原則として民法697条1項の「その事務の性質に従い、本人のために最も有利になるように管理をしなければならない」とされており、これは「善良な管理者の注意(善管注意義務)」を負うと解釈されるのが一般的です。しかし、本問のケースは「台風が接近して、屋根の一部が壊れていたB宅に甚大な被害が生じる差し迫ったおそれがあったため」という状況であり、これは「緊急の事情がある場合」に該当します。このような「緊急事務管理」の場合には、民法699条が適用されます。民法699条は、緊急時に本人の意思に反して事務管理をした場合でも、本人の利益のためにしたことが明らかであれば、損害賠償責任を負わないと定めています。この規定の趣旨は、緊急時に他人のために行動した者を保護し、萎縮させないことにあります。そのため、緊急事務管理の場合には、通常の事務管理よりも注意義務の程度が軽減されると解釈されており、「自己の事務と同一の注意」で足りるとする見解が有力です。したがって、「善良な管理者の注意をもって修理しなければならない」という記述は、緊急事務管理の状況においては、過度な義務を課すものであり、誤りとなります。 【選択肢4】正。 事務管理者が本人のために支出した費用については、本人に償還を請求することができます。民法702条1項は、「管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる」と定めています。「有益な費用」とは、本人にとって客観的に利益となる費用を指します。本問では、Aによる屋根の修理が「Bの意思に反することなく行われた場合」と明記されており、かつ屋根の修理はB宅の被害を防ぐための「有益な費用」に該当します。したがって、AはBに対し、Aが支出した有益な費用全額の償還を請求することができます。この選択肢は正しい記述です。 以上の理由から、誤っている記述は選択肢3となります。