宅建 平成30年度(2018年)問4 権利関係 の解説
問題
時効の援用に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- 消滅時効完成後に主たる債務者が時効の利益を放棄した場合であっても、保証人は時効を援用することができる。
- 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
- 詐害行為の受益者は、債権者から詐害行為取消権を行使されている場合、当該債権者の有する被保全債権について、消滅時効を援用することができる。
- 債務者が時効の完成の事実を知らずに債務の承認をした場合、その後、債務者はその完成した消滅時効を援用することはできない。
正解
正解は選択肢 2 です。
解説
正解は選択肢2です。時効の援用は、時効によって直接利益を受ける者が行使できるとされています(民法145条)。後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅によって間接的に利益を受けるに過ぎず、直接利益を受ける者ではないため、援用権者とは認められないとする判例があります(最判昭48.12.14)。
・民法145条(時効の援用):時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。 【補足】ここでいう「当事者」とは、時効によって直接利益を受ける者を指し、その範囲が本問のポイントとなります。 ・最判昭43.10.29:保証人は主たる債務者の時効援用権とは独立して、自己の債務について時効を援用できる。 ・最判昭48.12.14:後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できない。 ・最判平10.6.22:詐害行為の受益者は、債権者から詐害行為取消権を行使されている場合、当該債権者の有する被保全債権について、消滅時効を援用することができる。 ・最判昭33.9.12:時効完成後に債務者が時効の完成を知らずに債務の承認をした場合でも、その承認は時効利益の放棄と解され、その後は時効を援用できない。
【選択肢1】正。 保証人は、主たる債務とは独立した債務を負っており、主たる債務の消滅時効が完成すれば、保証債務も付従性(主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅する性質)により消滅する利益を直接受けます。したがって、主たる債務者が時効の利益を放棄したとしても、保証人は自己の保証債務について独立して時効を援用することができます(最判昭43.10.29)。これは、保証人が主たる債務者とは異なる立場から時効の利益を主張できることを示しています。 【選択肢2】誤。 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権が消滅すれば、自己の抵当権の順位が繰り上がるという利益を受けます。しかし、判例は、後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の債務者ではないため、その消滅時効を援用することはできないとしています(最判昭48.12.14)。これは、時効の援用権者は、時効によって「直接」利益を受ける者に限定されるという考え方に基づいています。後順位抵当権者が受ける利益は、あくまで先順位抵当権の消滅という「間接的な」結果に過ぎないと判断されるため、援用権者には含まれません。 【選択肢3】正。 詐害行為取消権を行使されている受益者は、債権者の被保全債権(債権者が債務者に対して持っている債権)が消滅すれば、詐害行為取消権の行使が認められなくなり、自己が取得した財産を維持できるという直接的な利益を受けます。そのため、判例は、詐害行為の受益者も、債権者の被保全債権について消滅時効を援用することができると判断しています(最判平10.6.22)。受益者は、債務者と共同して債権者の債権を否認する立場にあると理解できます。 【選択肢4】正。 時効が完成した後に債務者が債務の承認をした場合、たとえその時に時効の完成を知らなかったとしても、その承認は時効の利益を放棄したものとみなされます(最判昭33.9.12)。時効の利益の放棄は、時効完成後に自由に行うことができる行為であり、一度放棄すれば、その後は時効を援用することはできなくなります。これは、時効制度が債務者の保護だけでなく、取引の安定を図る目的も持つため、完成後の債務者の意思表示を尊重する趣旨です。