宅建 平成20年度(2008年)問7 民法 の解説

問題

注意義務に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

  1. ある物を借り受けた者は、無償で借り受けた場合も、賃料を支払う約束で借り受けた場合も、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
  2. 委託の受任者は、報酬を受けて受任する場合も、無報酬で受任する場合も、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。
  3. 商人ではない受寄者は、報酬を受けて寄託を受ける場合も、無報酬で寄託を受ける場合も、自己の財産と同一の注意をもって寄託物を保管する義務を負う。
  4. 相続人は、相続放棄前はもちろん、相続放棄をした場合も、放棄によって相続人となった者が管理を始めるまでは、固有財産におけると同一の注意をもって相続財産を管理しなければならない。

正解

正解は選択肢 3 です。

解説

正解は選択肢3です。寄託契約において、無報酬で寄託物を受け取った受寄者(預かる人)は「自己の財産と同一の注意」で保管すればよいとされています(民法659条)。しかし、報酬を受けて寄託物を受け取った受寄者は、より重い「善良な管理者の注意」をもって保管する義務を負います(民法660条)。選択肢3は報酬の有無にかかわらず「自己の財産と同一の注意」としている点が誤りです。

宅建試験で頻出の「注意義務」の程度は、大きく分けて以下の2つがあります。 1. **善良な管理者の注意義務(善管注意義務)**:その職業や地位にある者として、一般的に要求される程度の注意を払う義務です。他人の財産を管理する際に求められる、より高度な注意義務と理解してください。 * **民法594条1項(使用貸借)**:借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。これに違反し、又はこれによって生じた損害については、原状に復する義務を負う。 * **民法600条(賃貸借)**:賃借人は、賃借物の使用及び収益について、善良な管理者の注意をもってこれを保存しなければならない。 * **民法644条(受任者の注意義務)**:受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。 * **民法660条(有償の受寄者の注意義務)**:報酬を受けて寄託を受けた者は、善良な管理者の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。 2. **自己の財産と同一の注意義務(自己物同一注意義務)**:自分の財産を管理するのと同じ程度の注意を払う義務です。善管注意義務に比べて、やや軽い注意義務とされています。 * **民法659条(無報酬の受寄者の注意義務)**:報酬を受けないで寄託を受けた者は、自己の財産と同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。 * **民法918条1項(相続財産の管理)**:相続人は、その固有財産におけると同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄の期間中は、この限りでない。 * **民法940条1項(相続放棄後の管理)**:相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又はその承継人が相続財産の管理を始めるまで、自己の財産におけると同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。 これらの条文を比較し、どのような場合にどちらの注意義務が課されるのかを正確に理解することが重要です。

【選択肢1】正。ある物を借り受けた者(借主)の注意義務に関する記述です。 * **無償で借り受けた場合(使用貸借)**:民法594条1項により、借主は善良な管理者の注意をもって物を保存する義務を負います。無償であっても、他人の物を借りている以上、一定の責任が伴います。 * **賃料を支払う約束で借り受けた場合(賃貸借)**:民法600条により、賃借人は善良な管理者の注意をもって賃借物を保存する義務を負います。 したがって、どちらの場合も「善良な管理者の注意」が要求されるため、本記述は正しいです。 【選択肢2】正。委任契約における受任者の注意義務に関する記述です。 * **委任契約**は、当事者間の信頼関係に基づいて成立する契約です。民法644条は、受任者は「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と定めています。これは、報酬の有無にかかわらず適用されます。委任は相手の事務を処理する重要な契約であるため、常に善管注意義務が課されると覚えておきましょう。 したがって、本記述は正しいです。 【選択肢3】誤。寄託契約における受寄者(預かる人)の注意義務に関する記述です。 * **無報酬で寄託を受けた場合**:民法659条により、受寄者は「自己の財産と同一の注意」をもって寄託物を保管すればよいとされています。これは、無償で引き受けたことへの配慮から、注意義務の程度が軽減されているためです。 * **報酬を受けて寄託を受けた場合**:民法660条により、受寄者は「善良な管理者の注意」をもって寄託物を保管する義務を負います。報酬を受け取る以上、より専門的かつ慎重な管理が求められるため、注意義務の程度が重くなります。 本記述は「無償で借り受けた場合も、賃料を支払う約束で借り受けた場合も、自己の財産と同一の注意をもって」としており、報酬を受ける場合にも自己物同一注意義務を課している点が誤りです。報酬を受ける場合は善管注意義務となります。 【選択肢4】正。相続人の相続財産管理義務に関する記述です。 * **相続放棄前**:民法918条1項により、相続人は「その固有財産におけると同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない」とされています。まだ相続するかどうか確定していない段階なので、善管注意義務より軽い自己物同一注意義務でよいとされています。 * **相続放棄をした場合**:民法940条1項により、相続放棄をした者でも、その放棄の時に相続財産を現に占有している場合は、放棄によって相続人となった者(次順位の相続人など)が管理を始めるまでは、「自己の財産におけると同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」とされています。これは、放棄したからといって直ちに管理責任を放棄できるわけではなく、次の管理者に引き継ぐまでの暫定的な責任を負うためです。 したがって、どちらの場合も「固有財産におけると同一の注意(自己物同一注意)」が要求されるため、本記述は正しいです。

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