宅建 平成22年度(2010年)問6 民法 の解説
問題
両当事者が損害の賠償につき特段の合意をしていない場合において、債務の不履行によって生ずる損害賠償請求権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 債権者は、債務の不履行によって通常生ずべき損害のうち、契約締結当時、両当事者がその損害発生を予見していたものに限り、賠償請求できる。
- 債権者は、特別の事情によって生じた損害のうち、契約締結当時、両当事者がその事情を予見していたものに限り、賠償請求できる。
- 債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時からその進行を開始する。
- 債務の不履行に関して債権者に過失があったときでも、債務者から過失相殺する旨の主張がなければ、裁判所は、損害賠償の責任及びその額を定めるに当たり、債権者の過失を考慮することはできない。
正解
正解は選択肢 3 です。
解説
正解は選択肢3です。この問題は、債務不履行による損害賠償請求権に関する民法の規定と判例知識を問うもので、特に損害賠償の範囲(民法416条)、過失相殺(民法418条)、そして消滅時効の起算点に関する判例がポイントとなります。選択肢3は、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点に関する判例(最判昭和41年4月8日)の趣旨に合致しており、本来の債務の履行を請求し得る時から時効が進行するとされています。
・民法第416条(損害賠償の範囲):債務不履行によって生じる損害賠償の範囲を定めています。通常生ずべき損害と、特別の事情によって生じた損害に分けて規定されています。 ・民法第418条(過失相殺):債務不履行や損害の発生・拡大に債権者側の過失があった場合に、裁判所が損害賠償の責任や額を調整できることを定めています。 ・最判昭和41年4月8日:債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点について、本来の債務の履行を請求し得る時から進行を開始すると判示しています。
【選択肢1】誤り。 民法第416条第1項は、「債務の不履行によって生じた損害の賠償は、これによって通常生ずべき損害の賠償に限る。」と規定しています。ここでいう「通常生ずべき損害」とは、債務不履行があれば一般的に発生すると考えられる損害のことです。この通常損害については、債務者がその発生を予見できたかどうかは問われません。予見可能性が問題となるのは、同条第2項に規定される「特別の事情によって生じた損害」の場合です。したがって、「契約締結当時、両当事者がその損害発生を予見していたものに限り」という記述は、通常損害に関する規定としては誤りです。 【選択肢2】誤り。 民法第416条第2項は、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」と規定しています。この「特別の事情によって生じた損害」について、予見可能性の基準時が問題となりますが、判例・通説は「債務不履行時」を基準とすると解しています。つまり、債務不履行が発生した時点で、債務者がその特別の事情を予見できたか、または予見することができたかを判断します。したがって、「契約締結当時」に限定する記述は誤りです。また、「両当事者が」ではなく、債務者が予見できたかどうかが重要となります。 【選択肢3】正しい。 債務不履行によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効の起算点については、判例(最判昭和41年4月8日)が重要な判断を示しています。この判例は、債務不履行による損害賠償請求権は、本来の債務の履行請求権が形を変えたもの、あるいはそれに代わるものとして発生すると考え、その消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行を開始するとしました。例えば、代金債務の履行期が到来したにもかかわらず支払われなかった場合、その時から債務不履行による損害賠償請求権も発生し、時効が進行し始めるということです。この記述は、この判例の趣旨に合致しています。 【選択肢4】誤り。 民法第418条は、「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定めることができる。」と規定しています。この「過失相殺」は、裁判所が職権で行うことができる事項と解されています。つまり、債務者から過失相殺の主張がなくても、裁判所は、債権者の過失を考慮して損害賠償の責任や額を調整することが可能です。したがって、「債務者から過失相殺する旨の主張がなければ、裁判所は、…考慮することはできない」という記述は誤りです。