宅建 平成30年度(2018年)問1 権利関係 の解説
問題
AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- 甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。
- Aが甲土地を売却した意思表示に錯誤があったとしても、Aに重大な過失があって無効を主張することができない場合は、BもAの錯誤を理由として無効を主張することはできない。
- AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。
- Aが第三者の詐欺によってBに甲土地を売却し、その後BがDに甲土地を転売した場合、Bが第三者の詐欺の事実を知らなかったとしても、Dが第三者の詐欺の事実を知っていれば、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる。
正解
正解は選択肢 4 です。
解説
正解は選択肢4です。第三者の詐欺による契約は、相手方(B)が詐欺の事実を知っていたか、または知ることができた場合に限り取り消すことができます(民法96条2項)。本肢ではBが詐欺の事実を知らなかったため、AはAB間の契約を取り消すことができず、したがって選択肢4は誤りとなります。
【民法94条(虚偽表示)】 相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効とします。しかし、その無効は、その意思表示の無効を善意の第三者(虚偽表示の事実を知らなかった人)に対抗することができません。これは、取引の安全を保護するための規定です。 【民法95条(錯誤)】 意思表示は、その内容や動機に錯誤(勘違い)があった場合、取り消すことができます。ただし、表意者(意思表示をした人)に重大な過失(不注意)があった場合は、原則として取り消すことができません。これは、表意者の保護と取引の安全のバランスを取るための規定です。 【民法96条(詐欺又は強迫)】 詐欺や強迫によってなされた意思表示は取り消すことができます。特に、第三者(契約の相手方ではない人)が詐欺を行った場合、契約の相手方(本問ではB)がその詐欺の事実を知っていたか、または知ることができた場合に限り、意思表示を取り消すことができます。これは、相手方の保護を考慮した規定です。 【民法121条の2(取り消された行為の原状回復)】 取り消された法律行為は、初めから無効であったものとみなされます(遡及効)。これにより、当事者は契約がなかった状態に戻す「原状回復義務」を負います。 【民法533条(同時履行の抗弁権)】 双務契約(売買契約のように、両当事者が互いに義務を負う契約)の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる権利です。原状回復義務もこの関係に立ちます。
【選択肢1】正。 詐欺による契約の取消しは、民法96条1項に基づき可能です。契約が取り消されると、民法121条の2第1項により、その契約は「初めから無効であったもの」とみなされます(遡及効)。これにより、契約当事者は互いに、契約がなかった状態に戻す「原状回復義務」を負います。具体的には、AはBに代金を返還する義務を、BはAに登記を移転する義務を負います。これらの原状回復義務は、双務契約から生じる義務と同様に、民法533条の「同時履行の抗弁権」の関係に立ちます。つまり、Aが代金を返還するまでBは登記移転を拒否でき、Bが登記を移転するまでAは代金返還を拒否できる、ということです。したがって、本選択肢の記述は正しいです。 【選択肢2】正。 錯誤による意思表示は、民法95条1項の要件を満たせば取り消すことができます。しかし、同条3項ただし書により、表意者(A)に「重大な過失」があった場合は、原則として取り消すことができません。錯誤による取消しは、錯誤に陥った表意者(A)を保護するための制度です。A自身が重大な過失によって取り消すことができない場合、相手方(B)がAの錯誤を理由に契約の無効を主張することは、制度の趣旨に反します。判例も、表意者(A)が錯誤による無効を主張できない場合には、相手方(B)も無効を主張できないとしています。したがって、本選択肢の記述は正しいです。 【選択肢3】正。 AB間の売買契約が「仮装譲渡」(通謀虚偽表示)である場合、民法94条1項により、その契約は「無効」です。しかし、この無効は、同条2項により「善意の第三者に対抗することができない」とされています。ここでいう「善意」とは、仮装譲渡の事実を知らなかったことを指し、過失の有無は問いません(判例)。本肢では、BがCに甲土地を転売し、Cが仮装譲渡の事実を知らなかった(善意)とあります。この場合、Cは民法94条2項の「善意の第三者」に該当するため、AはCに対して、AB間の契約が無効であることを主張(対抗)することができません。したがって、本選択肢の記述は正しいです。 【選択肢4】誤。 Aが「第三者の詐欺」によってBに甲土地を売却した場合、民法96条2項が適用されます。この規定によれば、第三者の詐欺による意思表示は、契約の相手方(B)がその詐欺の事実を「知っていたとき」(悪意)または「知ることができたとき」(有過失)に限り、取り消すことができます。本肢では、「Bが第三者の詐欺の事実を知らなかった」と明記されています。これはBが善意無過失であることを意味します。したがって、民法96条2項の要件を満たさないため、AはAB間の売買契約を詐欺を理由に取り消すことができません。AがAB間の契約を取り消せない以上、その後の転得者Dが詐欺の事実を知っていたかどうかは関係ありません。AはDに対しても、契約の無効を主張することはできません。「Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる」という記述は、民法96条2項の要件に反するため、誤りです。