宅建 令和1年度(2019年)問2 権利関係 の解説
問題
AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
- AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
- Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失がなければ、Aは、Bから甲土地を買い受けたCに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。
- Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失があったとしても、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。
正解
正解は選択肢 4 です。
解説
正解は選択肢4です。民法95条2項により、表意者に重大な過失がある場合、錯誤による意思表示の無効を主張することはできません。したがって、Aに重大な過失がある場合、AはBに対して錯誤無効を主張して土地の返還を請求することはできないため、本選択肢は誤りとなります。
【民法95条1項(錯誤による意思表示の無効)】 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 (※2020年4月1日施行の改正民法により「無効」から「取り消すことができる」に変更されましたが、本問は改正前の知識を前提としている可能性が高く、また、改正後も「取り消すことができる」とされた上で、その取消しは遡及的に無効となるため、実質的な結論は大きく変わりません。試験対策上は、改正後の条文を正確に理解することが重要です。) 【民法95条2項(錯誤無効の主張制限)】 表意者に重大な過失があった場合は、前項の規定による取消しを主張することができない。 (※改正民法では「取消しを主張することができない」とされています。本問の選択肢は「無効を主張して」とあるため、改正前の「無効」の概念で解説します。いずれにせよ、重大な過失があれば主張できない点は共通です。) 【民法96条3項(詐欺取消しと第三者)】 詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。 (※「善意」とは、詐欺の事実を知らないことを指します。) 【判例(詐欺取消し後の第三者)】 詐欺による契約の取消し後に、その取消しの事実を知らない第三者が当該不動産を買い受けた場合、取消しの効果を主張する者(元の所有者)と、取消し後に新たに権利を取得した第三者との間の優劣は、対抗問題として登記の有無で決するとされています。つまり、第三者が登記を備えていれば、元の所有者は登記なくして対抗できません。 【判例(錯誤無効と第三者)】 錯誤による意思表示の無効は、民法96条3項のような善意の第三者保護規定がないため、原則として善意無過失の第三者に対しても対抗できるとされています。
【選択肢1】正。 AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。 **解説:** 詐欺による意思表示の取消しは、民法96条3項により「善意の第三者に対抗することができない」と定められています。しかし、この規定は「取消し前の第三者」を保護するものです。 本選択肢のように、AがBとの契約を詐欺を理由に取り消し、その後にCがBから甲土地を買い受けた場合(「取消し後の第三者」)、AとCの関係は、判例により「対抗問題」として扱われます。対抗問題とは、どちらが先に登記を備えたかによって優劣が決まるという原則です。Cが所有権移転登記を備えている以上、Aは登記なくしてCに甲土地の返還を請求することはできません。また、「いわゆる背信的悪意者ではないCに対して」という記述も重要です。背信的悪意者(登記がないことを知りながら、あえて登記を妨害するような悪質な第三者)であれば登記なくして対抗できる場合もありますが、そうでない限り登記が必要です。したがって、本選択肢の記述は正しいです。 【選択肢2】正。 AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。 **解説:** 本選択肢は、AがBとの契約を詐欺を理由に取り消す前に、CがBから甲土地を買い受けた場合(「取消し前の第三者」)に関する問題です。この場合、民法96条3項が適用されます。民法96条3項は「詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない」と規定しています。ここでいう「善意の第三者」とは、詐欺の事実を知らない第三者のことです。 本選択肢では、Cは「Bの詐欺について悪意」であると明記されています。つまり、Cは詐欺の事実を知っていたため、民法96条3項で保護される「善意の第三者」には該当しません。したがって、Aは悪意のCに対して詐欺による取消しを対抗することができ、甲土地の返還を請求することができます。したがって、本選択肢の記述は正しいです。 【選択肢3】正。 Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失がなければ、Aは、Bから甲土地を買い受けたCに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。 **解説:** 錯誤による意思表示は、原則として無効(改正民法では取り消すことができる)とされます(民法95条1項)。ただし、表意者(A)に重大な過失があった場合は、無効(取消し)を主張できません(民法95条2項)。 本選択肢では、Aに重大な過失がないため、Aは錯誤による無効を主張できます。そして、錯誤による無効は、詐欺による取消し(民法96条3項)とは異なり、善意の第三者を保護する規定がありません。判例も、錯誤による無効は、善意無過失の第三者に対しても対抗できるとしています。したがって、AはBから甲土地を買い受けたCに対しても、錯誤による無効を主張して甲土地の返還を請求することができます。したがって、本選択肢の記述は正しいです。 【選択肢4】誤。 Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失があったとしても、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。 **解説:** 錯誤による意思表示の無効(改正民法では取消し)は、民法95条2項により、表意者(A)に「重大な過失があった場合は、無効(取消し)を主張することができない」と明確に定められています。これは、表意者自身の不注意が著しい場合には、その保護を制限するという趣旨です。 本選択肢では、「Aに重大な過失があったとしても」と明記されています。この場合、民法95条2項の規定により、Aは錯誤による意思表示の無効を主張することができません。したがって、AがBに対して錯誤による無効を主張して甲土地の返還を請求することはできないため、本選択肢の記述は誤りです。これが正解となります。 **【試験対策のポイント】** 詐欺と錯誤は、どちらも意思表示の瑕疵(欠陥)に関するものですが、第三者保護の規定が異なります。特に、詐欺の「取消し前」と「取消し後」の第三者保護の違い、そして錯誤には善意の第三者保護規定がない点をしっかり区別して覚えることが重要です。また、錯誤における「重大な過失」の有無が、無効(取消し)を主張できるかどうかの重要な分かれ目となることも押さえておきましょう。