宅建 平成27年度(2015年)問10 権利関係 の解説
問題
遺言及び遺留分に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 自筆証書の内容を遺言者が一部削除する場合、遺言者が変更する箇所に二重線を引いて、その箇所に押印するだけで、一部削除の効力が生ずる。
- 自筆証書による遺言をする場合、遺言書の本文の自署名下に押印がなければ、自署と離れた箇所に押印があっても、押印の要件として有効となることはない。
- 遺言執行者が管理する相続財産を相続人が無断で処分した場合、当該処分行為は、遺言執行者に対する関係で無効となるが、第三者に対する関係では無効とならない。
- 被相続人がした贈与が遺留分減殺請求により全部失効した場合、受贈者が贈与に基づいて目的物の占有を平穏かつ公然に20年間継続したとしても、その目的物を時効取得することはできない。
正解
正解は選択肢 4 です。
解説
正解は選択肢4です。遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害額請求)により贈与が失効した場合、受贈者は目的物の所有権を失い、その占有は「他主占有」に転化すると解されています(最判平成10年3月27日)。他主占有では時効取得は成立しないため、本選択肢は正しい記述となります。
【選択肢1】民法第968条第2項(自筆証書遺言の変更方法) 【選択肢2】民法第968条第1項(自筆証書遺言の押印)および最高裁判所平成6年6月24日判決 【選択肢3】民法第1013条第2項(遺言執行者がある場合の相続人の行為の効力) 【選択肢4】民法第162条(時効取得)および最高裁判所平成10年3月27日判決
【選択肢1】誤。自筆証書遺言の内容を遺言者が変更する場合、単に二重線を引いて押印するだけでは、その変更の効力は生じません。民法第968条第2項は、「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その変更の箇所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に押印しなければ、その効力を生じない。」と定めています。これは、遺言者の真意を確保し、偽造・変造を防ぐための厳格な要件であり、2019年の法改正後もこの要件は維持されています。したがって、本選択肢の記述は誤りです。 【選択肢2】誤。自筆証書による遺言をする場合、遺言書の本文の自署名下に押印がなくても、自署と離れた箇所に押印があっても、遺言者の意思に基づいて押印されたものであると認められる限り、押印の要件として有効となります。最高裁判所平成6年6月24日判決は、押印の場所について、遺言書の全体から見て遺言者の意思に基づいて押印されたものであることが認められれば、必ずしも自署の直下に限定されないと判断しています。したがって、本選択肢の記述は判例に反し誤りです。 【選択肢3】誤。遺言執行者が管理する相続財産を相続人が無断で処分した場合、当該処分行為は、遺言執行者に対する関係だけでなく、第三者に対する関係でも無効となります。民法第1013条第1項は「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と定め、さらに同条第2項(2019年7月1日施行)は「前項の規定に違反してした行為は、相続財産に影響を及ぼさない。」と規定しています。この「相続財産に影響を及ぼさない」とは、遺言執行者の権限を保護するため、相続人が行った処分行為は絶対的に無効となることを意味します。したがって、第三者に対する関係でも無効とならないとする本選択肢の記述は誤りです。 【選択肢4】正。被相続人がした贈与が遺留分減殺請求(旧法)により全部失効した場合、受贈者は目的物の所有権を失います。この場合、受贈者の占有は、もはや自己のためにする占有(自主占有)ではなく、所有権を失ったことを認識した時点から、遺留分権利者のためにする占有(他主占有)に転化すると解されます(最高裁判所平成10年3月27日判決)。時効取得は、所有の意思をもって(自主占有で)平穏かつ公然に一定期間占有を継続することが要件(民法第162条)であるため、他主占有では時効取得は成立しません。したがって、本選択肢の記述は正しいです。